何もない所から武器を作る方法2

最後のライブへ向かう。

10分間のライブに出演するのにノルマが2万円くらいかかった。

東京に友達もほとんどいなくお客さんを呼べなかったし、1人になってしまった分、全額を自分が払わなければいけなかった。

けれど、それもこれが最後だと思えば安く感じたりもした。

 

ライブのセットリストは考えずにトラックを1曲だけ持ってライブハウスへ向かう。

重い足取りを軽くする為にアルコールに頼りながら、ライブハウスのドアを開ける。

フロアに人はまばらだった。

ライブ開始までの約1時間ずっとフロアを眺めていた。

 

何もない中でも唯一「悔しい」という感情だけが生きていた。

とにかく何もかもが悔しい。

まだまだ自分の中には終わってしまう事への迷いがあった。

 

既存曲を持って来ていなかったからか不思議と肩の荷が軽かった事を覚えている。

良くも悪くも一生懸命がんばって積み上げて来たものを最後のライブなのに捨てて来てしまったのは、心のどこかでやはり最後ではないという気持ちがあったのだと思う。

まだまだやれるっていう気持ちが。

 

ライブが始まったら言いたい事だけを言おうと決めていた。

その言いたい事はライブが始まったら考えようと思っていた。

そして、ライブが始まった。

 

僕に5分だけ時間をください。

僕にチャンスをください。

僕のラップを聴いてください。

5分聴いてもらってダメだったらもう諦めて実家に帰るのでお願いだから5分間だけ僕のラップを聴いてください。

 

自然と出た言葉だった。

それをひたすら連呼した。

それは昔憧れていたラッパー像とは正反対で弱々しくカッコ悪かったと思う。

ただ僕が東京でやり残した事だった。

憧れになろうとしていただけで自分自身の勝負がまだ出来ていなかった。

 

韻も踏まずにラップする事には抵抗があったが、でも韻を踏まないラップを怒ってくれる先輩ももういないじゃないか。

そして、散々韻を踏んでも全然通用しないじゃないか。

 


絶対に自分達なら東京でも通用すると思っていたのに全然ダメだったじゃないか。

 

悔しさに引っ張られる様に怒りの感情も息を吹き返した、わずかながらのお客さんも真剣な目でこちらを見ていた。

僕はフロアに向けてというよりは人に向けて話をする様にライブを続けた。

ライブ中にも関わらず自分の中で今までと違った感覚があった。

それは言葉がお客さんの中に居続けて、次の言葉を待っている様なそんな感覚だった。

 

「もしかしてまだやれるんじゃないか」

それはライブが終わる頃には確信に変わっていた。

 

 

つづく