何もない所から武器を作る方法36

リリースまでの段取りは組んだ。

あとは、3月にリリースなので遅くても1月末までに無事にアルバム収録曲が完成すれば良い。

いつも以上にスケジュール感を気にしていた。

1月末まではあと3ヶ月。

新しい試みの客演曲が心配だった。

 

客演曲をアルバムに収録するのが初めてというわけではない。

しかし、今までの客演曲はお互い面識のある方々だった。

すでにdaokoちゃんを迎えた客演曲は完成していた。

 

ただ大森靖子さん(以下、大森さん)は、全く面識がなく、会った事もないし、連絡先も知らない。

そして、多分僕の事を知らない。

どうしよう。

じょじょに大森さんの知名度が上がってきて、SNSを見てみると忙しそうにしていた。

 

しかしながら、今回のアルバムには彼女が必要だった。

 

自分の事を知らない相手に客演を申し込む、しかも、制作期間が短い。

一番、最短距離を行く方法を思いついた。

 

大森さんに歌って欲しいパートを空けて、自分のパートだけリリックを描き、ラップを録った音源を完成させた。

曲名は『原爆ドームの見方が変わった日 feat. 大森靖子』。

もうデモの時点でfeat.に名前を記載した。

 

これを聴いてもらえれば、僕がどんなアーティストかわかるし、歌って欲しい事もわかる。

面識がないのにいきなり失礼かとも思ったけれど、自己紹介も自分の意図も全てがこのデモで伝わるはずだと思った。

そして、何よりも客演参加のOKNGがすぐにわかると思った。

 

結果論かもしれないけれど、大森さんは絶対に参加してくれると思っていた。

 

連絡先がわからないので大森さんのWEBSITEのお問い合わせフォームからメールを送った。

 

数日後、「ぜひ、やりましょう!」という返事をもらって嬉しかった。

 

そこから、大森さんのスケジュールの空きに合わせて新宿のレンタルスタジオでレコーディングした。

大森さんに会ったのはその日が初めてだった。

とても緊張した。

 

daokoちゃんも大森さんもこのアルバムに参加してくれて本当に嬉しかった。

 

客演曲が全て完成した。

 

 

そして、アルバムのタイトル曲。

僕は『29才のリアル』リリース時に会社も悪くないと思った。

もういい加減、会社の愚痴とかを曲にするのは辞めよう。

自分から会社の方々に心を開いて行こう。

そう思っていた。

 

なぜなら、前職の上司A氏が僕が退職したあとのチームミーティングでこんな事を言っていたらしい。

 

 

A氏

「この中に音楽やってる人いる?」

 

部下

「いや、いないと思いますけど、急にどうしたんですか?」

 

A氏

「飲みにでも行こうかと思って。」

 

 

そんな話を聞いたら、やはり新しい職場では最初から僕も早く打ち解けられる様にがんばるろうと思う。

 

だが、現実は甘くなかった。

またやってしまった。

 

「絶対にこんな会社辞めてやる」