何もない所から武器を作る方法49

この時期にライブした場所で何度も僕の事を呼んでくれた綱島温泉東京園という温泉施設がある。

(現在は鉄道開発のため無期限休業中)

 

時には大森靖子さんと一緒にライブしたりと色々な思い出がある。

 

客層も赤ちゃんからお年寄りまでいて、というか、温泉にいる赤ちゃんってめちゃくちゃ真剣に僕のライブを見てくれる。

温泉以外では基本的に泣かれてしまうのに。

これも不思議な温泉の力だと思う。

人を穏やかにさせるというか。

 

 

この子が大人になった時に、ふと綱島温泉でライブしていた僕を思い出してくれたら嬉しいね。

 

週末に温泉で宴会をする方々に悪い人がいないのか、みんな本当に温かくて優しかった。

座敷に座って皆が持ち寄った日本酒やおつまみを頂きながら音楽を聴いて、自分もライブして最高だった。

 

後に出会う事になるあっこゴリラさんが偶然僕のライブを見たのもこの頃だった。

 

時にはワンカップさんが飲み代欲しさに履いて来たスニーカーを高いのか安いのかよく分からない価格設定で売ってみたりと自由だった。

この頃のワンカップさんは無敵で海賊みたいだった。

『I  ♡ 飲酒』を座右の銘に掲げ、自分の身長の半分程の大きさの日本酒の瓶を常に持ち歩いていた。

 

多分、前世は綱島温泉か日本酒の瓶だったんだと思う。

 

僕はここまでもこれからも、どこでもライブをする。

それは挑戦の一択だ。

やった事のない事を断わるのと、やった事がある事を断わるのでは全然意味が違う。

断わる時は後者でありたい。

 

僕の様なアーティストは、キャパシティーや音響設備等ももちろん大事ではあるけれど、何もない様な場所でのライブをやって行かなければいけないと思う。

そこがどこであれ、身一つで乗り越えられなければ、この先にどんな立派なライブ会場が待っていたとしても届かない言葉がある様な気がしていた。

 

ネクタイを締めた大人だったら場所に合わせて言葉を選ぶけれど、ニット帽をかぶったラッパーは、ここがどこであれ言葉でこの場の空気を変えられなければ、どっちみち先なんてないと思う。

 

どんな場所でも自分の空気に持って行く事が必ず人に伝わると思う。

聴いた事ないジャンルの音楽だったとしても一生懸命さがあるなら、周りの雰囲気に合わせずにただ夢中にひたすらに自分のやるべき事を一生懸命やれば、そこから目をそらす人は居なくなると思う。

 

それが出来ずに「今日は場所が悪かった」を言い訳にするなら、結局自分の一生懸命さが周りの雰囲気に負けた事になる。

恥ずかしいくらいに一生懸命ライブしたあとのビールは何よりも美味しいのに。

 

だから、最初に綱島温泉からオファーがあった時、宴会場で僕のライブ受け入れてもらえるのかと不安があったが勇気を出して出演してみた。

そんな、綱島温泉を無期限休業で失った事はとても痛かった。