何もない所から武器を作る方法56

12枚目のアルバム『33才のリアル』を10月にリリースしようと準備を進めていた。

 

ちょうどMOROHAが10月5日にアルバムをリリースするという情報をキャッチしたので、同じ日に設定した。

そして、MOROHAのアルバムジャケットが赤を基調としている事から、僕は黄色を基調としたジャケットを作成した。

例えば『炎』は周りは赤だが中心の色は黄色だから、そんな想いがあった。

 

さらに、帯にもMOROHAを意識した一文を入れた。

 

 

なぜ、そこまでするのか。

 

この時、MOROHAはすでに僕の手の届かない所にいた。

そして、僕のCDが通常並んでいるのはジャパニーズヒップホップコーナーだけど、MOROHAはそのコーナーにはいない。

色々なものを乗り越えて、遠くにいた。

 

姑息な手段だけれど、僕の様なワンマンレーベルが店頭で第一線のアーティストと一緒にCDを並べる為に、いかにしてお金をかけずにプロモーションが出来るか常に考えていた。

どれだけ面白い事が出来るか。

その為なら便乗出来るものは便乗する。

卑怯だと言われても、リリースは挑戦なのだから。

 

CDに無言のメッセージを込めた。

その対象はまずレコードショップの店員さんだ。

 

当日、僕のCDがレコードショップ店頭でどう展開されるのか。

賭けてみた。

 

 

そして、迎えたリリース日。

 

Hi-STANDARDが16年ぶりのシングルCDをゲリラリリースした。

 

話題はHi-STANDARD一色に染まってた。

輝きが違い過ぎた。

 

それでも、たくさんの同世代がレコードショップに長い列を作る姿を見て、希望が湧いた。

皆、手にHi-STANDARDのCDを持っていたが、自分のCDを持っている人がいないか確認しながら僕はジャパニーズヒップホップコーナーを目指した。

 

その途中、MOROHAのアルバムが大展開されていた。

 

そのMOROHAコーナーの中に僕のアルバムがちょこんとあった。

 

 

レコードショップに僕とMOROHAを恐らく昔から知っている意識の高い店員さんがいる。

いや、僕はいると信じていた。

 

それは、配信が主流になり始めている時代に、CDのリリースでしか味わう事の出来ない瞬間だった。

 

 

いつか、またMOROHAとお酒でも一緒に飲む事があれば笑ってこの日を振り返りたい。

 

「あの日、Hi-STANDARDはわざとMOROHAと狐火にリリース日を合わせて来たんじゃないか。俺達の事を恐れていたんじゃないか。」

 

みたいな話をしたい。