何もない所から武器を作る方法59

旅と音楽に参加して、農家の方と一緒に漬物を作ったり、漁師の方と一緒に漁に出たり、そこから曲を作ったり。

今までの自分にはない試みだった。

ノロウイルスに感染したり、大変な事もあったけれど、総じてやってみて良かった。

やはり、挑戦はしてみるものだと思った。

 

そして、気付くとラップを始めて15年の歳月が流れていた。

 

それは信じられないくらいあっという間だった。

先輩のアパートの押し入れでバンダナを巻いたマイクで初めてレコーディングした日が昨日の事の様に思えた。

 

配信のみの作品も合わせて14作品をリリースしていた。

次の15作品目は15年の記念というか1つの区切りとしてベストアルバムにしよう。

そう思った。

 

ただしあくまで通過点、昨日までのベストにしようと思った。

 

それでも過去のアルバムから選曲を始めるにつれて、とても長い歳月が経過した事に気付いた。

懐かしさに選曲の手を止めて、振り返り、改めて思った。

ここまで来れたのは奇跡だった。

人生をやり直すとしても、今回以上の結果は絶対に得られない。

 

 

全てがうまく行った。

 

 

結果論だけれど、うまく行くまで我慢したのかもしれない。

 

 

ある日のライブ中に心臓に手をあててみた。

それは驚くほど速く脈を打ち、少しでも多く空気を吸い込もうと鼻と口は言葉の隙間を縫う様に呼吸し。

地団駄を踏んで、自分をステージに集中する様に打ち付けて。

少しでも多くのものを見ようと目を大きく開いて、喉を枯らしながら、1つの言葉を体を捻りながら目に映る全てに投げかけて。

 

いつからかライブの翌日に心と体が擦り減ってしまった様な感覚に落ちる事に悩む様になった。

 

ただ、その代わりにライブが終わった時、その場に居た初対面の方々と10年分くらいのコミュニケーションが一方的ではあるけれど取れた気がした。

 

それだけのコミュニケーションが取れたのなら人見知りの自分は疲れてしまって当然かもしれない。

 

でも、歳とともに確実に地団駄は踏めなくなるし、喉や体力も衰えると思う。

その分、そこでの挑戦はあると思うけれど。

過去の自分に負けたくないので。

ライブが僕の音楽なので。

 

だから、このベストアルバムもあくまでライブのパンフレットで。

今しか出来ないライブが確実にあるから。

 

一番、見て欲しいものは過去や未来ではなくて今だと思うから。

 

だから、アルバムのリリースは同時にライブを続けている証だと思いたい。

そのアルバムを持ってライブに来て欲しい。

サインだったらいくらでも描くから。

 

本当にいつか車椅子とか寝たきりになってしまっても、それでも点滴の管に交ざって1本だけマイクのコードを通して欲しい。