何もない所から22

地獄の様な研修が始まった。

福島県の山間の研修施設に到着した。

ここで5日間の研修がスタートする。

ここは携帯電話の電波が無く、自力で逃げるのは不可能な研修施設で僕は昔一度だけ来たことのあった。
良く企業の研修で利用されていると噂で聞いたこともあった。


まず、ランダムに男女6人のグループが作られた。

その日はお互い知らない者同士そこで自己紹介などディスカッションが行われた。
僕はここでも偶然ノースカントと同じグループだった。

翌日はなぜかグループ対抗マラソン大会が行われた。

そして、宿舎に戻ると大声出し大会。

少しでも手を抜いているのがわかると怒鳴られた。

もうクタクタだ。

夕食やお風呂の時間も課題をクリアしたチーム毎に厳しく決められていて、僕は2日間お風呂に入れなかった。

 

行きのバスの中にあったどこか遠足の様な気分はとっくに消えていた。

たった数日で自分がもう学生では無いこと、そして社会は思っていたより厳しいことは分かった。

要するにこの研修は学生の気分を完全に捨て去る研修だった。


ノースカント

「社会は厳し過ぎるよ、これ何の仕事する会社だよ」

 

みんな精神的にも限界が近づいていた。

このまだ雪の残る山間施設の閉そく感が拍車をかけた。

 

ノースカント

「みんな社会人になるとこの試練を経験するのかな?だとしたら社会人ってすごくない?」

 

「研修終わったら同級生に聞いてみよう」

 

ノースカント

「お互い無事に研修終われたらな」

 

何とか研修最終日まで辿り着いた。

途中で脱落した方もいたが僕のグループは6人全員が最終日を迎えられた。

 

研修最後の課題はお互いを𠮟咤激励すること。

5日前に知り合ったばかりのグループ内で1対1でお互いを𠮟咤激励するのだ。
そういうのはとても苦手だ。

くじ引きで相手を決めるのだが1回目の僕の相手は偶然ノースカントだった。

僕はがんばって𠮟咤激励した。

やってみると言葉がスラスラ出てくるのだ。

 

ノースカント

「おい!あんた叱咤しかしてねぇじゃねぇか!激励は?激励?」

2回目は相手は女性の方だった。

 

女性

「あなたの優しさは人を傷付ける。そして、他人に興味が無さ過ぎる。」

 

ノースカント

「そうだ!そうだ!」

 

めちゃくちゃ突き刺さった。


こうして何だか気まずくなりながら5日間の研修を終え、またバスで東京へ戻って行った。

ノースカント

「あれ?激励は?」


つづく