何もない所から3

クローゼットの中の隙間に

だいたいの秘密を隠していた。
なかなか郵送出来ない実家への手紙とか。
【写ルンです】で撮った自撮り写真とか。

ある日、思い切ってクローゼットに居場所を作り、ファミマで買って来たノートとボールペンでリリック(歌詞)をひっそりと描き始めた。

この頃になるとちょっと不良っぽい同級生が「俺、ラップ始めたわ」と言っていたり、学生食堂で大人しい同級生が「最近、韻しか踏んでないや」と言ってたり、急に自称ラッパーが増え始めていた。
ずっと高校生の頃から『自分にラップが出来るのか?』と自問自答していたが軽い気持ちで自称ラッパーを始めてみるのもいいのかもしれない。

時には周りの流れに身を任せるのも良いのかもしれない。
いや、そもそも僕はずっと流れに身を任せていた気もする。

一歩踏み出す勇気は何であれ必要だった。

僕は昔から詩を描く事が好きで、いや、自分の描いた詩を祖父母や学校の先生に褒めてもらう事が好きだった。
だから、リリックはわりとすんなり描く事が出来た。

最初の一歩がとても遠かったのだと思った。

何にしてもそうなのかもしれないけれど。

 

はじめてみたら楽しくて楽しくて、ただリリックはあるけれどラップの仕方が良く分からない。

でも、手探りでラップしてみたり、それらが全て楽しかった。
日本語ラップの第一線にいらっしゃる方々の真似事から始めてみたり。

 

大学入学当時(18才)は、どこにぶつけて良いか分からない気持ちを家族に向けてしまい。
とても迷惑をかけたことがあった。
このままではダメだと思っていたが、どうする事も出来ずに落ち込んで、心許せる人に言葉にもならない言葉をぶつけた。

このリリックを描き始めた日からそれは少しづつ変わっていった。

本当に良かったと思う。


感情も詩にすればペン先から僕のモヤモヤした気持ちごとノートに落としてくれる。

描き終えた後はとても心が軽くなった。

ずっと胸の内にあった全てをラップは飲み込んでくれる感じがした。

いや、実際に全て飲み込んでくれた。

この先の僕の人生も全て。

久しぶりに会った家族に「何か変わったね!」と言われた時はとても嬉しかった。


つづく