何もない所から10

僕はイッキさんとイベントがある度にクラブに遊びに行き、肩身狭くフロアの隅でゲストライブを見て、1枚のドリチケのお酒を分け合い、帰宅して昼までゲストライブの感想を言い合った。

まだ一度もライブ出来ていない焦りは日に日に自分を追い込んで行ったが、追い込まれている焦りがあるうちはまだやれると思った。

そんな毎日は何も結果を残してはいないが充実していた様に思う。
そして、ライブさえ出れば人生が変わると思っていた。

21才の3月に初めてのライブオファーが来た。

イッキさんのバイト先の同僚の妹の高校卒業イベントからライブオファーがあった。
場所はいわきSONICという良く2人で遊びに行くライブハウスだった。

僕ら以外の出演者はバンドだったが喜んで引き受けた。

そして、その日からライブに向けてのスタジオ練習が始まった。

イッキさんの軽自動車にターンテーブルやミキサーを詰め込んでスタジオでそれらをセッティングしているとだんだんライブに出るという実感が湧いて来てワクワクよりも緊張が勝る様になっていった。
スタジオの帰りは深夜までラップ練習の反省会をした。
お酒は一滴も飲まずにだ。

ライブの日が近付く毎にじょじょにイッキさんの口数も減り、緊張が伝わって来た。
不安を掻き消す様にやれるだけの事はやったつもりだった。

そして、ついにライブ当日を迎えた。

オープンの3時間前にリハーサルのため会場入りした。
音が鳴っているライブハウスしか知らない自分にとって初めて見る静寂の無観客フロアは朝食べたノリ弁当を吐き出すくらい緊張に拍車をかけた。

隣を見るとイッキさんは既にトイレで吐いた後だった。

2人ともただただ無言で立ち尽くしていた。


つづく