何もない所から12

これならいけるかもしれない。

僕の全てが崩れ去った経験が緊張を消してくれる。

それは感情でいう所の怒りなのかもしれない。

出番が来た。

マイクを手に取り、ステージの袖から
一気にステージに出た
まだ肌寒いのにプール開きをした初日の体育授業をなぜか思い出した
顔を上げると
こちら側を照らすライトで目が眩んで
何も見えない
お客さんの拍手だけが鳴り響き
光と音が混ざり
ステージ上はどこか熱を帯びていた
とても追い切れない情報量だった
僕は一瞬で頭が真っ白になった
ノースカントが大声で
「あんたらマジでリスペクト」

と叫んだ声が

耳に届き
ふと、我に返り
隣を見るとイッキさんが不敵に笑っていた
小声で
「いつものスタジオ練習だと思えば大丈夫だ」
と言った
ただ、それは説得力に欠ける
ここはそれくらい思考をどこかに飛ばしてしまう
出番前にステージ袖で考えてた
怒りの感情さえ
今、この瞬間はどこかへいってしまった
お互い何もマイクを通しては話さずに
1曲目のスタートを待った
呼吸は早く
まともに息が出来なかった


つづく