何もない所から6

どうすればいいのかわからない。
自分の行動により先輩達の怒りをかってしまった。
考えるよりもまず行動したことが仇になってしまった。

この小さな町ではそれが世界の全てだった。

何より自分を苦しめたのは一夜にして見た景色が音も立てずに崩れていったことだった。
生まれて初めてあんなにちやほやされて気分が良かった。
ただその分の反動もすごかった。

それは呪いの様に常に自分にのしかかる。

本当はもっと時間をかけて好きなことを続け、毎年少しづつ高い景色を見れる様になって行き、自分の足元から目を離さずにあの景色を見る事が出来たらどんなに幸せだっただろうか。
きっとその時は周りも先輩も僕を誉めてくれたと思う。

しばらくは何も手に付かず。
また、何もない自分に戻ってしまった。
いや、たまたま運良くスポットライトが一瞬当たっただけで自分には何もなかったんだと思う。
テレビに出たのは夢だったんじゃないかとすら思った。

あんなに毎日見返していた自分の出演時のビデオテープをクローゼットにそっとしまった。

あの日以来、学食のオーロラソースのシャケフライを見ると怒られた時の事を思い出す様になった。

大好きなラップの話もしなくなった。

自分にはラップをするプライドや資格がないからだ。

でも、ここで止まったら二度と挑戦は出来なくなる。

2002年、季節は秋になっていた。
あの木に桜の花が咲いていたことを誰も気にかけないように。
僕がテレビに出ていた記憶はみんなの中から消えかけていた。


その日、僕は大学生活にラップではない何かを見出したくてサークルの見学に友人らと参加していた。

週に一度体育館でバレーをしたり、キャンプやスノーボードをしたり、大学にありがちなイベントサークルだった。


つづく