何もない所から14

次があるということは幸せなことだ。

ライブを1度経験した僕らは次のライブをいくらか売り込みやすくなっていた。
レコードショップの店員さんにイベントオーガナイザー(主催者)を紹介していただいたり、少しづついわき市のクラブ界隈の人脈を広げていった。

そして、ようやく次のイベントが決まった。
深夜帯のヒップホップイベントだ。

ただここで大きな壁にぶつかる。
チケットノルマだ。
例えば、イベントに出たければチケットを10枚売る。
もし売れなかったら10枚分のチケットを自腹で買い取るという様なかたちだ。

チケットが1枚2,000円の場合は1枚も売れなかったら2万円を払ってライブを行うというかたちである。

初ライブは高校の卒業公演ということもありこのチケットノルマが無かったのだ。

CDをリリースしたりゲストとして呼ばれる様になるとノルマが無くなり、逆にギャラ(出演料)がいただけたりするとの事だった。

 

「ステージに立つってお金がかかるんですね!」

 

イッキさん

「俺も噂では聞いてた。誰もが一度は通る道らしいよ。」

「まぁ、チケット売りさばけば問題ないっしょ!」


最初のうちは大学やサークルの仲間がイベントに来てくれチケットノルマは毎回達成することが出来ていたが、じょじょに自腹の額の割合が多くなり2人で割ってノルマ代を払っていた。

 

ライブの方は回数を重ねる毎に慣れていき、それはノルマ代の対価としては十分価値のあるものだった。

 

イッキさん

「仕方ねぇ。このチケットノルマがいつか回りまわって有名になった時に自分に返ってくると思うしかねぇ。」

 

 僕

「そうですね!いつか取り返しましょう!」

 

この頃になると僕らがラップをしていることが大学内でも知れ渡り、オリジナルの楽曲を作ってくれるトラックメイカーの先輩(トシキさん)やDJをしている同級生(ミツヤマ君)など仲間が増えて来た。

トシキさんの家に夜な夜な集まり、その魔法のような指先でMPCやサンプラーを使用し作るトラックに朝方までワクワクして過ごした。
今まではありもののレコードインストでラップをしていたが、ここから完全にオリジナルのトラックでラップをする様になっていった。

 

ただ楽しい時間はあっという間に流れていく。

イッキさんは大学を卒業する3月を迎えていた。


僕らの中では、『大学の卒業』とは漠然とした『自由の終わり』の様な、得体のしれない恐怖があった。


つづく